パパのこども診療ノート

【パパ】#5 3歳娘の肘が抜けた?肘内障の体験とわが家の工夫――「泣かないのに腕を動かさない」そのとき我が家でどう対応したか

パパのこども診療ノート

我が子の体験:泣かないのに動かさない、その不思議な姿

ママ:「この前、長女がまた腕を動かさなくなったよね。泣きもしないで静かに座ってて、最初は“疲れたのかな?”って思ったくらい。」

パパ:「そうだったね。遊んでるときや寝返りをしたとき、ソファーで変な座り方をしたときもあった。強く引っぱったわけじゃないのに起きるんだ。」

ママ:「『腕が痛いから何もしたくない』ってポツリと言ったのを聞いて、やっとただ事じゃないって思ったよ。パパがいて“これは肘内障だ”って気づけたけど、私だけならわからなかったと思う。」

パパのメモ:肘内障を医療者向けに解説

どんな状況で多い?(疫学・背景)

  • 好発年齢:1〜4歳。5歳以上ではまれ(1)。
  • 性差:女児にやや多い。
  • 左右差:左腕に多い(右利きの大人が左腕を引っぱる状況が多いため)。
  • 受傷機転前腕回内位(前腕を内側にひねり手のひらが下向き)での牽引。具体例:遊びで腕を引っぱる・ぶら下げる、手首を持って持ち上げる、転倒など。
  • 養育者による傾向:「腕を持って子どもを振り回す」「持ち上げる」「じゃれ合う」での受傷は男性の養育者に多く、一方「子どもが腕を振り払う」「つまずく」「着替えをさせる」場面での受傷は女性の養育者に関連する傾向がある[Pediatr Emerg Care. 2012;28(8):771.]。
  • 再発:incidence of recurrence was 26.7%Ann Emerg Med. 1990;19(9):1019–23.)。

病態生理

環状靭帯が牽引で伸展し、橈骨頭が靭帯の下に滑り込んで、靭帯が橈骨頭と橈骨頸部の間に挟まることで可動が制限され、疼痛と機能障害を生じます。

臨床像

  • 突然に患側上肢を動かさなくなる。泣かずに静かになることも多い。
  • 肘は軽度屈曲、前腕は回内位、上肢は体側に下垂。
  • 腫脹・皮下出血・変形は通常みられず、骨折との鑑別点になる。
  • 家族の訴え:「腕を使わなくなった」「遊んでいたら動かさなくなった」など。

診断

典型例では臨床診断で十分とされます(1, 3)。非典型、腫脹・変形・著明な圧痛を伴う場合、あるいは評価で疑義が残る場合には画像で骨折などを除外します。

  • 画像検査を考慮する状況:腫脹・発赤・変形・強い圧痛の存在、整復試行後も改善が乏しい場合など。
  • 主な鑑別:上腕骨顆上骨折、橈骨骨折、鎖骨骨折、肘関節脱臼。

Q1. 肘内障の治療法は?自分たちでやっても大丈夫?

結論家庭で独自に整復を試みるのは危険です。標準的な対応は医療機関での評価と処置であり、自己判断で行うことは推奨されません(3)。理由は、骨折を含む他の外傷を見落とすリスクがあるためです。

Q2. 肘内障の予防方法は?

  • 腕を引っぱらない(特に回内位での牽引を避ける)。
  • 手首や手を持って子どもを持ち上げない。
  • 腕を持ってぶら下げ遊びをしない。
  • 抱き上げるときは脇の下を支える。

生活習慣での注意が中心で、薬や器具による予防はありません。保育者・家族への教育と情報共有が重要です(1)。

我が家の実践:保育園と病院への“連携プレー”

ママ:「何度もなると、保育園でも心配されるよね。」

パパ:「だからまず、肘内障についての書類を保育園に出したんだ。いつ起きたのか、どんな状況だったのか、左右どちらが抜けやすいかを先生たちと共有してる。」

ママ:「そうそう。先生たちも“無理に動かさずに連絡すればいい”って分かってくれて安心したよ。」

パパ:「それから、かかりつけ医も決めたよね。家では僕が対応できるけど、保育園で起きたときは僕の職場の整形外科に行くってルールにした。」

ママ:「事前にパパが整形の先生に事情を説明してくれてたから、保育園からも安心してお願いできるようになった。これで私も少し気持ちが楽になったよ。」

まとめ:安心につながるのは“情報共有”と“生活の工夫”

肘内障は幼児に多い外傷ですが、評価と対応は必ず医療機関で。再発が一定割合で起こり得るため、腕を引っぱらない・手首で持ち上げないなどの生活上の注意と、保育者・医療機関との情報共有を徹底することが安心につながります。わが家でも「保育園との連携」「かかりつけ医の決定」を通じて不安が軽くなりました。

参考文献

  1. Krul M, van der Wouden JC, van Suijlekom-Smit LW, Koes BW. Pulled elbow in young children. Can Fam Physician. 2018;64(6):439-441. https://www.cfp.ca/content/64/6/439.long
  2. Ulici A, Balanescu R, Topor L, Barbu M. Hyperpronation versus supination-flexion in the reduction of pulled elbow: a randomized trial. Pediatr Emerg Care. 2012;28(6):587-589. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22858743/
  3. Cleveland Clinic. Nursemaid’s Elbow: Symptoms & Treatment. https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22109-nursemaid-elbow
  4. Teach SJ, Schutzman SA. Prospective study of recurrent radial head subluxation. Ann Emerg Med. 1990;19(9):1019–23.
  5. Kwak YH, Kim DK, Ryu J, et al. Different mechanisms of radial head subluxation according to age and sex. Pediatr Emerg Care. 2012;28(8):771.

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